懐古コラム:環境を支配した大型生物たち

〜《火炎舌のカヴー/Flametongue Kavu》vs《賛美されし天使/Exalted Angel》 どっちが強い?〜


 スタンダードのデッキ構築に興味のある人なら、少し前までに環境内を支配していたあの凶悪なクリーチャーのことは記憶に新しいだろう。 赤いデッキは言うまでも無く、タッチで赤をくわえてまで投入されていた「あれ」、《火炎舌のカヴー/Flametongue Kavu(PS)》だ。

 ここ数年マジックの環境を支配しているのは《火炎舌のカヴー》の仲間達とも言うべきファッティ達だ。 もちろんこの流れの前には別の時代があったわけで、記憶に新しいところでは青の魔術師たちが全盛を極めていたウルザズサーガ時代。 この時代は、クリーチャー達よりも魔術師の唱える呪文の方が圧倒的なパワーを持っており、《補充/Replenish(UD)》だとか《天才のひらめき/Stroke of Genius(UZ)》だとか、 若しくは呪文を唱えるだけのエンジンを供給する《厳かなモノリス/Grim Monolith(UL)》だとか《ガイアの揺籃の地/Gaea's Cradle(UZ)》だとかが猛威を振るっていた。 4〜6マナ域のクリーチャーなんていうのはこれらの強力呪文の前に、藁でも刈るかのようになぎ倒されており、さらにそれらの呪文にバックアップされた《マスティコア/Masticore(UD)》だとか《変異種/Morphling(UZ)》といった、悪夢に出てくるような強力クリーチャー達しか使われていなかった。 もしくは、小粒で高パワーのクリーチャーが群れて相手をなぎ倒すとかそういったことくらいか(緑単はそれはそれで一時代を形成したが)。

 その死の呪文の嵐の中で頭角をあらわしたファッティがやがて現れた。《ブラストダーム/Blastoderm(NE)》だ。 3ターンしか命がないこのクリーチャーはその短すぎる代償と引き換えに4マナ5/5という破格のサイズと”対象にならない”という、魔術師たちにとっては致命的な能力を持っていた。 当時隆盛を極めていた青コントロール(パーミッション)にとって、いったん場に出てしまえばほとんど対処の仕様がない4マナ5/5は悪夢としか言いようがなかった。 その後、青い呪文の衰退と《ブラストダーム》の台頭によってクリーチャーデッキの復活の兆しが見え始めてきた。ウルザブロック退場と共にスタンダードに姿をあらわしたインベイジョンブロックは、まさにこの環境を後押しした。 《ヤヴィマヤの火/Fires of Yavimaya(IN)》は、《ブラストダーム》や《はじける子嚢/Saproling Burst(NE)》といったマスクスブロックの寿命つきファッティの能力を150%にアップさせ、一気に環境をファッティの横行する狂乱の時代へと導いた。 《火炎舌のカヴー》はそのファッティ環境の隆盛期に姿をあらわした。 ”場に出たときに対象のクリーチーに4点のダメージを与える”能力は出たばかりの当初は、「本体にダメージが行かない」「単独で場に出ることができない」などの欠点のみがクローズアップされ、さほど注目を集めることは無かった。 しかしFiresやMachineHeadの横行するこのクリーチャー環境においてはそのような欠点は危惧する必要は全くなかった。 火炎の舌で巻き取るべき対象には苦労しなかったのだ。4マナパワー4という巨体+相手のファッティクラスを1体屠るという、火を吐く《巨大ゴキブリ/Giant Cockroach(UL)》は瞬く間に赤いデッキのスロットを4つ潰すようになったのだ。 《火炎舌のカヴー》のマナコスト3Rという色拘束の少なさもこれに貢献したのだろう。

 ここからは《火炎舌のカヴー》の時代だった。 新しいエキスパンションが出るたびに《火炎舌のカヴー》は、時期王者を狙う新参者の顔に炎を吐きかけ、「おまえはダメだ」という烙印を押していった。 そう、タフネス4以下のクリーチャーは《火炎舌のカヴー》に焼かれるという理由でその価値を認められなかったのだ。この時期に《セラの天使/Serra Angel(7E)》が復活したが、彼女はもろに顔面に炎を浴びたうちの一人だ。 逆に《火炎舌のカヴー》に焼かれないサイズという理由で、《翡翠のヒル/Jade Leech(IN)》やキッカー付《カヴーのタイタン/Kavu Titan(IN)》等は重宝され、《アーナムジン/Erhnam Djinn(JUD)》に期待が集まったりもした。 今でこそサイカ殺しとして活躍している《幻影のケンタウロス/Phantom Centaur(JUD)》も、当時は対《火炎舌のカヴー》として期待されていたものだ。 また《火炎舌のカヴー》対策として”ノンクリーチャー構成”に近いデッキも活躍した。

 《火炎舌のカヴー》の強さは即アドバンテージに結びつくことだ。パワー4のクリーチャーとタフネス4以下のクリーチャー除去はそれぞれ単独で4マナあってもおかしくない仕事量だ。 計2枚分のカードと8マナ分。それを1枚のカードと4マナで済ましてしまう。単純な「強さ」がそこにはあった。

 そして2年が経ち、《火炎舌のカヴー》ですら太刀打ちできなかった「エキスパンションの寿命」が訪れた。さしもの火炎も時代の流れには逆らえず、タフネス4以下のクリーチャー達は炎の呪いから解き放たれた。 そして各部族達が団結力を元に蠢動し始めたオンスロートブロックの中に、これまた驚嘆すべきファッティが現れた。 《賛美されし天使/Exalted Angel(ONS)》だ。この3マナ+4マナエコー4/5飛行というスペックの《魂の絆/Spirit Link(7E)》付クリーチャーは、火炎舌とは別の意味で環境に君臨するようになった。 オンスロートブロックはクリーチャーの住みやすい環境だ。《炎の稲妻/Firebolt(OD)》や《激発/Violent Eruption(TOR)》といった強力な汎用除去を欠き、タフネス5以上のクリーチャーを単体で屠れる黒のカードがあまりにも少ない。 そして《魂の絆》効果が攻撃しつつ防御的に働くという2面に役に立ち、トータルとして安定して2枚分のカードの働きをする強力カードと相成った。
 環境のせいで除去されにくく、低マナ域高パワーかつ攻防一体のフィニッシャー。《火炎舌のカヴー》とは違った側面を持つものの《賛美されし天使》もまた単純な「強さ」をもったクリーチャーである。

 ところでこの2枚。時代がすれ違ったせいで直接対決する機会はなかったのだが、もし同時期に存在していたらどうなっていただろうか? なかなか面白いことになったと思われる。表返ってしまえば《賛美されし天使》の方が圧倒的に優位なのだが、唯一の弱点である変異中では《火炎舌のカヴー》の方が上手なのだ。 後手が3ターン目に変異、先手が4ターン目に《火炎舌のカヴー》で変異を焼いて勝負あり、もしくは先手が3ターン目に変異、4ターン目にさくっと《賛美されし天使》を表返して勝負あり。 これを回避するためにマナクリーチャーの重要性があがるか、《霊体の地滑り/Astral Slide(ONS)》で確実に表が返らせるように4マナためて変異を出すのが常套手段となるのか。 はたまたAstralSlideに投入された《火炎舌のカヴー》がどのようなキモチ悪い動きを見せるのか。 興味は尽きない。

 いつの時代でもクリーチャーはMtGの中で主役を張る存在だ。そしてその中には燦然と輝く「王者」が存在する。《火炎舌のカヴー》と《賛美されし天使》。 時代は違えど環境を支配する大型クリーチャー達はいつでもそこに居る。

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