オデッセイブロック・リミテッド構築のアーキタイプ考察

■Limited環境でのアーキタイプ  Limitedにおけるアーキタイプというものは普段はあまり意識していないだろう。だだ、Limitedにもアーキタイプは存在し、その種類は以下の2種類に限定される。
・ビートダウン
・コントロール
とはいえ、これらのアーキタイプは通常の構築で語られるタイプとは若干構成や意義が異なる。以下、簡単に説明しておこう。

□ビートダウン
 Limitedにおけるビートダウンとは、主に3マナ以下で高パワーを持つクリーチャー群の集中運用と言い切ることができる。このアーキタイプではクリーチャー数が17〜20を占め、場合によってはほぼ除去カードがない状態というのもありうる。戦略は単純明快で、序盤1〜4ターン目までに、連続して1〜2マナ域のクリーチャーを並べ、相手が戦線を構築する前に押し切ることである。中盤以降までもつれこむとカードパワーの差によって敗北することが多い。緑や赤が得意とするアーキタイプである。

□コントロール
 Limitedにおけるコントロールとは、優秀な除去とフィニッシャーに類するクリーチャーを要したタイプである。クリーチャー数は10〜13程度と少ないかわりに、時に10枚近い除去を有することがある。土地は事故らないように17枚以上採用する。このタイプの戦略はビートダウンに比べるとかなり難しい。序盤をタフネスが高く、死ににくいクリーチャーや豊富な除去で乗り切った後に、4,5マナ域の重量級(飛行)クリーチャーで場を制圧する。引きが悪ければビートダウンに圧殺されることも多く、コントロール同士のミラーマッチでは除去のぶつかり合いで膠着することが多い。青や黒、白が得意とするアーキタイプである。

■各アーキタイプの構成
 通常何も考えずに強力なカードを集めていった場合、コントロールタイプになることがおおい。なぜなら適切なマナカーブに沿ったクリーチャー群に適切(と人が考える)な数の除去カードを足せば大抵中途半端なコントロールデッキになるからだ。

:コントロール
クリーチャー
1マナ域:0
2マナ域:3
3マナ域:1
4マナ域:5
5マナ域:3
6マナ域:1
除去(ユーティリティカードも含む):9
計22

:ビートダウン
クリーチャー
1マナ域:4
2マナ域:7
3マナ域:6
4マナ域:1
5マナ域:2
除去(ユーティリティカードも含む):3
計23

:一般的な構成
クリーチャー
1マナ域:1
2マナ域:3
3マナ域:3
4マナ域:5
5マナ域:3
6マナ域:1
除去(ユーティリティカードも含む):4
計23

 この例はいささか乱暴ではあるが、各々のアーキタイプの一般的な的な構成を示している。もちろんビートダウンに使用されるクリーチャータイプは3マナ以下のパワーが高いものが中心で、コントロールに好まれるのは3/3以上の場を制圧できる大型クリーチャーか、0/4の壁などのクリーチャーとなる。この構成は特にドラフトの後半やデッキ構築の際に意識することが重要となる。

□間違った構成その1  上記のアーキタイプの構成を基にして、失敗例をあげてみよう。

例1)
クリーチャー
1マナ域:3
2マナ域:5
3マナ域:3
4マナ域:2
5マナ域:1
除去(ユーティリティカードも含む):9
計23
この構成は典型的な失敗例だ。おそらくは優秀な除去を大量に手に入れることができた代償に、フィニッシャーとなる4,5マナ域の大型クリーチャーを放棄してしまったのだろう。こういったことは良くある。一般に「除去>クリーチャー」という図式を基にドラフトしている人は多いと思うが、アーキタイプを念頭においた場合必ずしもこの図式は成り立たなくなる。コントロールには「優秀な除去」と「場を制圧できる大型クリーチャー」の2つが不可欠なのだ。「優秀な除去」と「大量の小型生物」ではできそこないのビートダウンデッキになってしまう。

□間違った構成その2

例2)
クリーチャー
1マナ域:0
2マナ域:1
3マナ域:2
4マナ域:6
5マナ域:5
6マナ域:2
8マナ域:1
除去(ユーティリティカードも含む):4
計22
4,5マナ域の脂ののったクリーチャーを中心に集めていると、こういう失敗を犯すことになる。デッキを構築している間は「4マナ域に達すれば怒涛の攻めができるデッキ」、あるいは「優秀なファッティを大量に詰め込んだデッキ」と勘違いをしてしまうのも、こういう間違ったアーキタイプを作り上げる原因になってしまう。クリーチャーの数はビートダウン並なのだが、動き的には後半に動き始めるストーリーである。このデッキは、よく作られたビートダウンデッキには手も足も出ないだろう。ファッティはLimitedの中で格別重要な意味を持つが、なんでもかんでもファッティを詰め込めば勝てるという風に解釈してはいけない。自分のデッキが「大量のファッティ」で構成されていないか、再考する必要があるだろう。

■アーキタイプを決定するタイミング
 さて、Limitedにおけるアーキタイプが2種類と先ほど述べた。とすると、プレイヤーはいったい自分がどのアーキタイプを目指しているのかを常に念頭におかなくてはならない。もちろん漫然と強いカードを集めるだけでもデッキは構築できるが、それが紙の束にならないようにするためにはやはりアーキタイプというものを念頭においたほうが有利に運ぶ。ではアーキタイプの決定というのはいつすればいいのだろうか?
 通常アーキタイプの決定は2パック目の中盤あたりで決定されていなければならない。序盤はとにかく強いカードを集めることに専念すべきだが、2パックもドラフトを行えば、自分がどのようなカードを中心に集められたか把握できるはずだ。自分の抑えたカードがビートダウンに属する物が多いと感じれば、残る3パック目ではファッティや除去を無視してでも2マナ2/2を抑えるべきだ。
 また場の流れも重要だ。序盤は3/3以上のファッティがファーストカードとして抑えられることが多い。1パック目の一週目を見て、2マナ2/2が多く巡回しているようだったらビートダウン戦略に移行する動機になるかもしれない。ファーストピックでAbosian,CephalidEmperorをとることができたのなら、他のよわっちいクリーチャーは無視して堂々とコントロールカードの収集に集中すればいいだろう。

■カードのアーキタイプへのマッチング
 通常、除去を優先してとっていればごく自然にコントロールデッキが出来上がる。また、NantukoDicipleのような有用なコントロールカードを多く集めることも然りだ。では自身の選択したアーキタイプによってどのようなカード選別の違いが出てくるのであろうか。たとえば以下のカードの中での選択はどうだろうか?
KrosanAvenger
RoaroftheWurm
MascleBurst

□KrosanAvenger
 このカードはビートダウン要因としてはうってつけのカードである。3マナのパワー3というのはLimited環境では水準以上であるし、トランプルという能力もコントロール戦略の中では全く不要だが、ビートダウンの中ではなかなかに有用である。したがって、上記の中での選択でこのカードを取るということは自分がビートダウン戦術に向かっているということを示している。
□RoaroftheWurm
 このカードを見たときに大半の人は「爆弾だから」という理由で選択していることと思う。ところがこのカードはれっきとしたコントロールカードであって、もし自分がビートダウン戦略を目指しているのならばあえて無視するという選択があることを忘れてはならない。このカードは4マナ6/6のみとして使用しても十分な強さを発揮できるが、真の力を発揮するのは7マナ、4マナで計2体の6/6を呼び出すことにある。しかし、7マナものマナをためるにはかなりのターンを凌がなければならない。おそらく平均で9〜12ターンは必要なのではなかろうか?もし自分がビートダウン戦略を目指しているのならばこの9〜12ターンという時間帯は、すでにゲームを終わらして外で一服たしなんでいるものであることは言うまでもない。
□MascleBurst
 このカードはビートダウンでもコントロールでも通用する、実に役に立つユーティリティカードだ。もっとわかりやすい言い方をすれば、ビートダウンではダメージソース、コントロールでは除去として機能する。プレイングの段階で自分のアーキタイプがどちらであるか把握していれば、おのずと間違った使い方からは救われるはずだ。
■2マナ2/2、3マナ3/1の持つ意味
 ビートダウン戦略においては、特に2マナ2/2、そして3マナ3/1という体格が重要になってくる。残念ながら今の環境には1マナ2/1や2マナ3/3という体格を持つものは少ない(皆無ではない)。では、実例をしめそう。Aはビートダウン戦略で1マナ1/1、2マナ2/2を中心とした構成、Bはコントロール戦略で4マナ以降にならないとクリーチャーが出てこないと仮定する。 :ターン1
A 1/1クリーチャー
B なし
:ターン2
A 1/1でアタック
  2/2をプレイ
B なし
:ターン3
A 1/1と2/2でアタック
  2/2と1/1をプレイ
B なし
:ターン4
A 1/1と1/1と2/2と2/2でアタック
  3/1をプレイ
B 3/3をプレイ

・・もっとも単純であるが、ビートダウンというものが決して侮れないアーキタイプであることがわかるであろう。もはやこの段階ではBのほうに劇的に優れた全体除去でもない限りこの状況を打開することはできない。もちろんSickningDreamやVolcanicSprayといった有用なコントロールカードを所持しているのならば話は別であるが。

■ビートダウンとコントロールに適したカード
 では実際にはどのようなカードがビートダウンやコントロールに適しているのだろうか?代表的な例を紹介しよう。

□白
ビートダウン:Confessor、DedicatedMartyr、MysticVisionary、PortalHound
コントロール:AngericWall、WaywardAngel、NormadDecoy、SecondThought、Teroh'sFaithful
※白は基本的にコントロール戦略を主とするが、MysticVisionary、PortalHoundはビートダウン戦略の中では割と優れているほうである。またコントロール戦略の要となるカードはAngericWallで、このカードが多く集まるようならば、除去、大型クリーチャーを主体としたコントロール戦略に向かおう。Teroh'sFaithfulもAngericWallと同じような働きをするカードで、コントロール戦略が地盤を確立するまでの貴重な数ターンを稼ぎ出してくれる。

□青
ビートダウン:PhantomWhelp、EscapeArtist、ThoughtEater、Aquamoba、SkywingAven
コントロール:PsyonicGift、ChamberofManipulation、Scrivener、DreamWinder、DeepAnalysis
※青は基本的にコントロール戦略を主とする。しかし除去という要素が非常に薄く、どちらかというとドロー操作やカウンター、バウンスなどによって他の主力色を助ける役割が多い。また、軸線をずらしてのアタックが可能な飛行クリーチャーを多く要する点もコントロール戦略の要となる要素である。ビートダウンとしてはPhantomWhelp、Aquamobaなどが重要な働きをする。

□黒
ビートダウン:FutyCar、DuskImp、CryptCreeper、OrganGrinder、CarrionRats、RottingGiant
コントロール:GhastryDemise、CreepingFatigue、InnocentBlood、ChanersEdict、GrotesqueHybrid
※黒は豊富な除去に支えられたコントロールタイプの色である。とはいえ軽量な除去が多いので、これらはビートダウン戦略の中でも有効に取り入れられることを考慮する必要がある。GhastryDemiseやInnocentBlood、CreepingFatigueはビートダウン戦略にも多く貢献するだろう。ビートダウン戦略の中では
FutyCar、CryptCreeper、OrganGrinderといったクリーチャー群が主力となる。特にOrganGrinderは、中盤以降はその能力によって、コントロール戦略型への対抗策となることがある良いカードである。

□赤
ビートダウン:Maddog、BlazingSalvo、BarbaianOutcast、LonghornFirebeast、Demoralize、EmberBeast、MinotaurExplorer、RecklessCharge
コントロール:Chainflinger、ScorchingMissile、ShowerofCoals、VolcanicSpray、PardicArsonist
※赤にはビートダウン戦略となる多くのカードが備えられている。FieryTemperやFlameBurstといったカードはコントロール戦略の中でも重要な位置を占めるが、本体への火力という選択要素があるおかげでビートダウン戦略の中でこそ真価を発揮できるカードといえるだろう。実際コントロール戦略の中で火力呪文が本体へ打ち込まれることはまれで、純粋な除去としてならばGhastryDemiseやKertersDesireなどの代用カードが他の色にも存在するからだ。しかし、本体へ打ち込めるというオプションを持ったカードは当然ながら赤にしかない。オデッセイ環境での赤のカードへの評価は散々たるものであるが、赤をビートダウンの基幹の色としてみれば決して見劣りはしていない。MaddogやBarbaianOutcast、RecklessChargeを多用した赤ビートダウン戦略のパワーには驚嘆すべきものがある。

□緑
ビートダウン:WildMongrel、ChatterofSquair、KrosanAvenger、DiligentFarmhand、Seton'sScout、BaskingRootwala
コントロール:ElephantAmbush、BeastAttack、RoaroftheWurm、KrosanArchers
※緑にはビートダウンに適したクリーチャーから、コントロール戦略の中で真価を発揮するクリーチャーまでさまざまなものがいる。上にあげたなかではBaskingRootwala、WildMongrel、ChatterofSquair、KrosanAvengerが重要なビートダウンカードであり、ElephantAmbushやNantukoDicipleはコントロール戦略の中で重要な働きをする。能動的な除去を持たない緑にとって、ビートダウン戦略にもたらす恩恵はクリーチャー以外にありえない。特に赤と組んだときは、緑の軽量クリーチャーを火力呪文で支援する、ビートダウンの最強形態となるだろう。

■総括
 ドラフトの際に個々のカードパワーについては正当な評価ができても、適切なアーキタイプを選択していなければ必ずしも強いデッキは組みあがらない。これは往々にしてあることで、自分も過去の戦績を振り返ってみると「強いカードばっかり取れた」試合でもろくな結果が出なかったり、「軽量クリーチャーばかり取れて除去がほとんど取れなかった」試合ですばらしい結果が出ることがあった。おそらく、組みあがったデッキが「コントロール系」か「ビートダウン系」にマッチングしていたときに、良い結果が出ていたのだろう。実際アーキタイプを意識してドラフトに望んだことはまだない。次回からはぜひこの点を考慮しながらドラフトを進めていこうと思っている。それはより高度で柔軟な思考が要求されることに違いないし、同時にドラフト戦というものがより面白くなるための要素だとも考えている。

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